イベント詳細
2012.08.01
2012年度春季企画展のご案内
※イベントは終了いたしました
青年たちの「社会復帰」 -1950-1970-
現在の日本では、若い人びとにハンセン病が発症することはまずありません。しかしかつて若くして発症し、隔離された人びとは、療養所に生きざるを得ないという諦めと、やがて自分も目の前の長期療養者のようになってゆくのかという虚しさに苦しみました。
1940年代後半に登場した化学療法薬は、療養所で一生を終えるというそれまでの通念を変えました。治れば社会人としての生活ができる、家庭を持ち、子どもを産み育て、家族とともにくらす、ということが夢ではなくなったのです。「らい予防法」には退所規定がなく、治癒して後遺症も軽い青年たちは、「長期帰省」や「一時外出」、あるいは「逃走」などの形で療養所を出ました。こうした「社会復帰」は、高度経済成長を背景に、1960(昭和35)年にピークを迎えました。
しかしそれは戦後の療養所の若い人びとが、貧しくとも生活は保障される隔離下に生きるか、それともさまざまな障壁があっても「社会復帰」するかの選択を迫られることでもありました。隔離され、仕事や家庭などの生活基盤をすべて失った人びとにとって、もう一度社会に戻ることは大変難しいことだったのです。また隔離政策下にやむを得ず入所したにもかかわらず、就職の斡旋や仕事が見つかるまでの生活資金などの支援はほとんどありませんでした。一度療養所を出ても、厳しい生存競争に疲れ果てて再入所した人もいました。
療養所の外には、ハンセン病が治るようになったことすら伝えられていませんでした。現在と比べものにならない激しい偏見の中では、ハンセン病であった過去を隠し続けなければならず、重労働、再発への不安が常につきまといました。人には言えない過去と後遺症のために「悔しい」「情けない」という思いに苛まれる辛さと、それでも自分の手で自ら生きる喜びを、共に抱え込むのが当時の「社会復帰」でした。
本展では、1950年から1970年頃までの「社会復帰」についての議論や運動を紹介し、当時「社会復帰」を経験した人びとの姿を通して、若い回復者が直面した困難と挑戦の一端をお伝えします。また、ハンセン病をめぐって主として取り上げられてきた「療養所に生きる苦悩」ばかりでなく、「社会に出て生きることの苦悩」に焦点をあて、改めて私たちの中に潜む差別と偏見のありようを問いたいと思います。
開催概要
【会期】
2012年4月28日(土) から 7月29日(日)
【会場】
国立ハンセン病資料館 2階 企画展示室
【休館日】
月曜日(祝日の場合は次の日)、館内整理日 入場料無料
展示解説
学芸員による展示解説を行います。
【日時】
各月第3土曜日(5月19日・6月16日・7月21日) 14時から40分程度