イベント詳細
2021.07.20
【開催報告】 ミュージアムトーク 2021(第6回 オンライン開催)
※イベントは終了いたしました。
戦後ハンセン病療養所の短歌 ―合同歌集『陸の中の島』を中心に 当日の記録をYouTubeでご覧いただけます。
講師 木村哲也(きむら てつや 当館学芸員)
全国国立療養所ハンゼン氏病患者協議会編『陸の中の島』(1956年)は、戦後の文芸活動の画期となる合同歌集です。本書によって初めて、全国のハンセン病療養所279人の短歌が一書にまとめられました。その内容は、家族への思いや闘病生活といった従来の主題に加え、「救らい思想」への違和感や患者運動など、新たな主題も表現しています。今回は、本書が切り拓いたその後の短歌活動への影響や、ハンセン病問題解決への寄与、といった成果についてもお話しします。(木村)
開催概要
2021年7月17日(土)14時 から 15時30分(予定)zoom配信
事前申し込み制・定員100人(申込先着順)
イベント当日の受付開始 13時45分
戦後ハンセン病療養所の短歌―合同歌集『陸の中の島』を中心に 開催報告
木村哲也(きむら てつや 当館学芸員)
当日は、まず全患協編『陸の中の島』(新興出版社、1956年)の作品世界を、手足の障害・知覚麻痺、視覚障害、故郷・家族、プロミン治療、断種・堕胎、監禁室・重監房、患者作業、患者運動、「救らい」への異議、沖縄からの参加、民族意識、女性の参加、社会的出来事への視野…といったテーマごとに分けて紹介し、各作品のテーマや表現が切りひらいた新生面について紹介しました。 『陸の中の島』刊行後の反響として、内田守人(ハンセン病療養所医官、短歌指導者)による批判と、それに対するハンセン病歌人たちの反論にも焦点を当て、多くの歌人たちが旧来の短歌観に対して、「批判精神」「文学の自由」を訴えている事実を紹介しました。 また、編集側のキーパーソンとして、光岡良二(全患協事務局長)と、中野菊夫(歌人)の果たした役割についても指摘。その後につづく短歌活動や、ハンセン病問題解決への新たな展開に道筋をつけたと、本書の意義を示しました。
アンケートより
- 絶対に第二弾を希望します。テーマ別にしてくださったおかげで園は違っていても、当時の入所者の方々の状況や考えが垣間見られた気がしました。特に「断種・堕胎」は人間の尊厳の部分になり、ここを目をそらさずに6首を選び取り上げた意義は大きいと思いました。夫の悩み、妻の悲しみ、ご夫婦でそれぞれ抱え込んでいたのだろうと胸がいっぱいになりました。
- テーマ毎に分類してお話いただけたので、収録短歌の傾向が分かりやすく伺えました。また、編者や批判の応酬の流れを知ることで、編纂趣旨や同時代評も把握出来、大変勉強になりました。
- 短歌だと、率直な気持ち、社会的な状況もわかり、若い世代に入口としてもいいのではないかと考えました。
- 内田守人氏の『陸の中の島』の批判に対する、光岡良二氏らの堂々とした反論が起こされたことは大変に喜ばしく、文学を愛した入所者の生き様が如何に力強いもので、また療養の人生であっても真剣に生きてこられたのかうかがい知ることができました。 ハンセン病史上、よく知られている様々な運動や活動の他にも、このようなペンの力もたくさんあったことを世間に知ってもらうことも重要であると思いました。
- 短歌の背景を知ることで、より身近にハンセン病患者の暮らしを感じることができた。一つひとつの短歌に心をうたれた。
- これほどまでに豊かな世界があることを、見事に紹介してくださったこと、感謝いたします。
- 歌集の魅力がよく伝わってきた。個人的には、そのような文学が社会に与えた影響、あるいは「陸の外」にいる歌人たちの受けた影響などもとても気になった。それと、未だにこの歌集は絶版とのことで、ぜひとも再版してもらいたいと強く思った。
- 達者な作家の作品のみを採るのではなく、厚く深く響く作品をなんでも採ったという編集方針のもとに出来上がった歌集について、実際の作品に触れながらその編集方針を体感できる形でご紹介いただきました。わかりやすく、興味深かったです。
…ほか多数のご回答をいただいております。ありがとうございました。